「すずめの戸締り」感想:行って帰る物語を描ききった傑作。
新海誠監督の最新作、『すずめの戸締り』見てきました。
ネタバレなしの感想を大雑把にまとめると、
地震という題材をエンターテイメントとして描いた見事な作品でした。
私は地震というテーマも知らずに、本当にPV以上の情報をシャットアウトしてみてきたので、かなり驚きました。
驚いたけど、冒険小説のようなワクワクもあったし、青春マンガのようなコミカルさもあって、2時間があっという間でした。
特に冒頭の畳み掛ける展開は、物語の導入として最強です。一気に引き込まれます。
一見突拍子もない行動を取るすずめですが、理屈のない衝動に突き動かされるキャラクターというのは、それだけで魅力を持つものです。そこから生まれる物語に期待を膨らませずにはいられません。
冒頭12分はアマプラで見られるので、とりあえず見て。そして劇場へ行きましょう。
これ以上ネタバレなしで語れる気がしないので、以下続きから語らせていただきます。
さて。
新海誠作品と言えば、『君の名は』では彗星……隕石による町の消滅を回避したり、『天気の子』では大雨により日本が沈んでしまう現実を受け入れたりと、天災・自然災害を一緒に描いてきました。
今作、『すずめの戸締り』は地震。各地の後ろ戸を締めることで、そこからでてくる蚯蚓……地震を防ぐお話でした。
冒頭1分でいきなり家の上に船が乗っているシーンが登場し、この時点で察した人が多数いると思います。私は思わず内心「うわ、マジか」と呟いてました。
その後、後半ではっきりと「3月11日」の日付が登場し、東日本大震災のお話だと明示されます。
――ついにやったなぁ、新海誠。
震災で親も家もなくした主人公すずめが、後ろ戸を締めることで震災を未然に防ぐことを家業としている青年。壮太とのガールミーツボーイ。
一緒に旅をしていた大半が「椅子」の状態のイケメンとはいえ、それでも人を好きになることに理屈はないんだろうなぁというところも面白さの一つだと思います。
でもそれ以上にメッセージ性が強すぎる部分が多すぎて、見終わると腰抜けそうになりました。
■「行って帰る物語」
入場特典『「新海誠本」の企画書前文』に記載されていたことですが、監督曰く「行って帰る話を作りたかった」のだとか。
幼いころに被災し、九州にやってきたすずめが東北にある自分の家へ行く(帰る)お話であり、全てを思い出して、それでも強く生きていく覚悟を決めたすずめが九州に帰る(行く)お話でした。
同時に、扉をくぐり死者の住む「常世」という非日常へ行くお話であり、そこから日常へ帰って来るお話もありました。
もうこの時点で全部描ききっていて100点!って言いたいのですが、
各キャラのセリフから伝わるバックボーンの重さが好きなので語らせてください。
・「死ぬのなんて、こわくない」
・「生きるか死ぬかなんて運でしかない」
まず草太に「死ぬのが怖くないのか!?」と聞かれたすずめのセリフ。
即答で「こわくない」と断言しています。
次に病院で草太の祖父に同様の質問をされた際のセリフ。
このセリフが、あとから「東日本大震災に被災して生き残ったことの重さ」に由来するものだと理解して、一気に重みが増しました。
幼いころの悲しい記憶を、心の奥にしまって鍵を掛けていたすずめ。けれど、”過去”と向き合って草太のために“今”を駆ける。ここに込められた願いのような、祈りのようなキャラクターの強さに感動します。
■ダイジンがもたらしたもの
実はダイジンがどういう理念で行動していたのかが、イマイチわかっていない私です。
すずめに「うちのこになる?」と言われ喜んだ彼(彼女?)がすずめの家族になるために、要石の役割を草太に押し付けた……ってことであってますかね?
後ろ戸に案内していた、とラストで判明するものの、草太に対する仕打ちや言動の不穏さから、すずめ以外の人間は心底どうでもいいと思っているのかもしれない……。
「すずめの家族になれなくて、ごめんね」と謝るダイジンの存在はきっと、すずめとたまきさんの関係性にも影響を及ぼしている気がする。
でもちょっと、言語化できそうにないです。
血のつながっていない家族が抱える問題。難しいです。
たまきさんのセリフを借りるなら、「それだけじゃない」んですよ。
いいことも悪いこともあって、それでも生きているっていうのが大切なんだと。
あぁ、やっぱりうまく言語化できないですね。
■新海監督特有のカット
個人的に、新海誠作品といえばシーンを繋ぐ独特なカットの多用があると思います。
分かりやすいところで言うと、扉が開く瞬間を横から映したようなカット。
過去の作品でよく見られたカットでしたが、今作は鍵を掛ける、鍵を開けるシーンのアップカットが多かったですね。(すずめの家の鍵や自転車の鍵など)
映像にメリハリがつくのはもちろんですが、作品のテーマに合わせた映像手法がなんだかとても「新海さんらしいカットだ~」っと後方彼氏面の気分で見てました。とても好き。
■芹沢がいいヤツすぎるというだけの話
教員試験に来なかった友人を心配し、その友人を探しているという少女の頼みを聞き入れ、どこまでも付き合ってくれるうそみたいな人間。
すずめとたまきさんのことを第三者として橋渡ししてくれる貴重なキャラクターだったのだが、それ以上にあまりにもいいヤツすぎてこの作品における好感度爆上がりキャラナンバーワンである。新海誠歴代作品で一番好きかもしれない。
でも2万円は返そうな。
■「楽しい物語」としての映画作り
震災を描くとなると、どうしても悲しい感情だったり、辛い思いでが蘇ったりというマイナスイメージが付きまといます。
けれど、それ以上の胸を躍らせるような冒険が、この物語の主軸にあると私は思います。
後ろ戸を締めるために日本を旅して回る。見ず知らずの土地で、人と出会い助けられ役割を果たし震災を未然に防いでいく。それはとても達成感にあふれた行いでしょう。
「大事なことをしていると思う」と笑いながら言ったすずめの言葉に草太がハッとしているシーンなどわかりやすいと思います。
この映画を見終わって、震災のことを思い出して悲しくなったり感傷的になったりするよりも、「面白かった」と満足な気持ちで劇場を後に出来るような、そんな映画になっていると思います。
新海監督らしい恋愛要素も残っており、それ以上に強まったメッセージ性に心打たれる作品でした。
もう一回見に行きたいです。
それでは、また。
感想はこのあたりで、お返しします。